2011-03-01

STERLING SILVER (2009)





Å´Åã¤Î¤â¤ ȤÇÃˤ¿¤Á ¤¬²ñÏäò»Ï ¤á¤ëʪ¸ ì ¡£¤³¤Î£´ Éô¹½À® ¤ÎŤ¤¾ ®Àâ¡¢ À¾Â¼À¶ ʸºî ÖÅ´Å ã¼þÊÕ¡ פˤ âÌܤò Ä̤½¤¦¤È ¤·¤¿¤ â¤Î¤Î¡¢¾®À â¤òÆÉ¤à ½¬´·¤¬¤¹ ¤Ç¤Ë¤Ê¤«¤ ä¿Èà¤Ï¿ô½ ½Ê¬·Ð¤Æ ¤Ð¤¦¤ó¤¶ ¤ê¤·¤Æ¤· ¤Þ¤¤¡¢°Ø»Ò¤Î¾å¤Ë ¤¢¤ë\Ï¡¼ \É\³\¢\Ý\ë\ 먻ï¤ä \²\¤\Ý\ë \먻ï¤ò¤ Ĥ¤¤ Ĥ¤¤á¤¯ ¤Ã¤Æ ¤·¤Þ¤¦¡£ ¤ ¤¤Ä¤â¤ Τ³¤È ¤À¡£¤ Ȥ­¤Ë¿ åÃå¤Ë ÃåÂؤ ¨¤Æ¤½¤ Τޤޤγʹ\ ¤Ç¼Ö¤ òÁö¤é¤¡£男は上半身裸だが焼けてもなく鍛えられているわけでもなく、かといってだらしなく脂肪があるわけでもなく、また、タトゥーが入っているわけでもなく、髪は肩ほどまであり、それが直射日光を浴びる。閑散とした部屋はおおらかなほど広い ランダムに掻き集められたかのようにデザインの統一性がない数個の携帯電話 椅子の上にはハードコアポルノ雑誌とゲイポルノ雑誌が数冊ずつ適当に重ねられて乗せられている 壁にはなにか画材などが写された写真が大量に貼られている 彼は22歳 過去、未来、さらには次元を越えた様々なところから、彼の入手した携帯電話にメールが届く。返信してもMAILER- DAEMON 大抵複数の画像ファイルが添付され、そこに大抵日本語で小説が詰め込まれている 彼はその画像ファイルをパソコン経由でプリントアウトし送られてきたときの日づけやどの携帯電話に届けられたファイルなのかを記し、丁寧に、机上、紙束の上に置く。 ½»µ ï·²¡£¾È¤ê ¤Ä¤±¤ëÆ üº¹ ¤·¡ £¤Û¤È¤ó ¤É¤ÎÁ÷Å ÅÀþ¤¬ÌÚ Ãì¤é¤& #183;¤ 73;¶è è¤Î¡¢Â¿ ³Ñ ·ÁÅ´Ãì¶á¤¯¡ £Ãˤ¬Ê £¿ô¤Î»æ ¤ Ϋ¤ò´ù ¾å¤ ËÃÖ¤­¡¢¸ý ¤ ˤ ¯¤ï¤¨¤Æ¤¤¤ë ÆüËÜ»º ¤Î±ìÁð¤Ë »ØÀè¤ò ¤ä¤ë¡£ ¤½¤Î¤È ¤­ô¤Î»æ ¤ Ϋ¤ò´ù ¾å¤ Ë¡£ やがて新たに小説の印字された紙をテーブルの上に置く。鉄塔のもとで男たちが会話を始める物語——この4部構成の長い小説、西村清文作「鉄塔周辺」に目を通そうとしたものの、小説を読む習慣がすでになかった彼は数分でうんざりして椅子の上にあるハードコアポルノ雑誌やゲイポルノ雑誌をついついめくる いつものことだ 水着に着替えてそのままの格好で車を走らせ、東、クイーンズサーフの砂浜に寝転がり、太陽の陽射しを浴びながら、そこにいる者たちのからだを乾いた瞳で見る。ときに話しかけて岩陰で舌を入れあう。ときに連れ込む。 22歳を好む 22歳同士、2つの2が並ぶ光景 ある日、日本人に出会う 海岸に腰まで浸かった状態で抱きあい、その水面下、海水パンツをずらしあってそそり立った陰茎同士をぶつけあわせて開放感のもとで健康的に笑いあっている。19歳の相手が手を下に伸ばして22歳のペニスをそっとなぞる。そのとき水泡が弾ける。唇同士が合わさってその開きあった密やかな空間にいつもより唾液の浮かんだ舌が絡みあう。



ÂçÊÁ¤ÇÀ¤Ã¤¿ほとんどの送電線が木柱らしき区域の多角形鉄柱近く 複数の紙の束を机上に置き、口にくわえている日本産の煙草に指先をやる そのときオーバーレイで蛇が描かれたシルバー925の指輪が、窓から差し込む太陽を受けて瞬間、光るÅ´Åã¤Î¤â¤ ȤÇÃˤ¿¤Á ¤¬²ñÏäò»Ï ¤á¤ëʪ¸ ì ¡£¤³¤Î£´ Éô¹½À® ¤ÎŤ¤¾ ®Àâ¡¢ À¾Â¼À¶ ʸºî ÖÅ´Å ã¼þÊÕ¡ פˤ âÌܤò Ä̤½¤¦¤È ¤·¤¿¤ â¤Î¤Î¡¢¾®À â¤òÆÉ¤à ½¬´·¤¬¤¹ ¤Ç¤Ë¤Ê¤«¤ ä¿Èà¤Ï¿ô½ ½Ê¬·Ð¤Æ ¤Ð¤1台の携帯にメールが届く「おれは今、2008年の日本にいる。時間を遡ってきみにこの小説が届けられたことだろう。由希、いったいおれはこれまでに何人の由希とつきあってきたことだろう。これを手にした由希が今度こそおれに自由を与えてくれることを信じている。——佐伯俊之」 ¦¤ó¤¶ ¤ê¤·¤Æ¤· ¤Þ¤¤¡¢°Ø»Ò¤Î¾å¤Ë ¤¢¤ë\Ï¡¼ \É\³\¢\Ý\ë\ 먻ï¤ä \²\¤\Ý\ë \먻ï¤ò¤ Ĥ¤¤ Ĥ¤¤á¤¯ ¤Ã¤Æ ¤·¤Þ¤¦¡£ ¤ ¤¤Ä¤â¤ Τ³¤È ¤À¡£¤ Ȥ­¤Ë¿ åÃå¤Ë ÃåÂؤ ¨¤Æ¤½¤ Τޤޤγʹ\ ¤Ç¼Ö¤ òÁö¤é¤¡£3週間ほどして男はいつものクイーンズサーフで初見の日本人青年を発見する。それから彼と少ししゃべって打ち解けあうとすぐに車に乗せて部屋に連れ込みシックスナインで抜きあって窓から差し込む陽射しを全身に受ける。あのさぁ…新たに出会ったばかりの男が、机上の紙束をまるで指先で文字が読めるかのように触りながらいう……僕は10歳の頃に親の仕事の関係でロンドンに住むことになりました。18くらいからたびたび旅行をするようになったけれど日本に帰ろうという気持ちにどうしてもなれないまま21歳になりました。テーブルの上にたくさんの日本語の文章があるけど、これは何ですか? あなたの文章? 男は、おれが書いたんじゃないよ、日本に住む何人かの小説のはずだけど、まともに読んだわけじゃないから分からない、という。ここに日本のことが書かれてるんですか? さあ。小説だからね。そういうのもあるかもしれないし、ほとんど読んでないから分からない。

翌日も、翌々日も、クイーンズサーフで知りあった21歳は居座り続ける。もしかすれば住んでいたかもしれない日本、そこに住む人たちのイメージを体系づけようとしているかのようで、男はそんな21歳と何度かセックスし、あとはテラスでからだを焼いたりしている。小説なんて読んで面白い? そう聞かれた21 歳は、もしかすれば僕が知りたいなにかがここにあるかもしれないと思うんです。ここの滞在はあと一週間だから、出会ったものとそれまでに向きあわないともう二度と出会えないかもしれない、由希くんのことももっと知りたいけど由希くんは…からだにしか興味ないようだから…。小説、随分まとめたね。結構読んでる。すげえな。それを受けた21歳がいう、どうして今はここで小説の束に囲まれてるんですか。21歳に視線をあわせてなにか言おうとし、やがて、棒読みとしか思えない口調で奇妙なことを口走る。——突如、運命に自由意志をかすめとられたんだ。

¤¢¤ëÆü¡¢ÆüËܿͤ˽вñ¤ ¦¡£ ³¤´ß¤Ë¹ø¤Þ¤Ç ¿»¤«¤Ã¤¿¾ õÂÖ¤ÇÊú¤­¤¢¤¤¡¢¤½¤Î¿åÌ̲¼¡ ¢³¤¿å\Ñ\ó\Ĥò¤º¤ 餷¤¢¤Ã¤Æ¤ ½¤½¤êΩ¤Ã¤ ¿±¢·ÔƱ» Τò¤Ö¤Ä¤± ¤¢¤ï¤»¤Æ¡¢ ³«Êü´¶¤Î¤ â¤È¤Ç· ò¹¯Åª¤Ë ¾Ð¤¤¤¢¤Ã¤Æ ¤¤¤ë¡£ 1 9ºÐ¤ÎÁê¼ê ¤¬¡¢¼ê¤ò² ¼¤Ë¿­¤Ð¤ ·¤Æ22ºÐ¤Î\ Ú\Ë\¹¤ò¤½ ¤Ã¤È¤Ê¤¾ ¤ë¡£¤½¤Î¤È¤­¿åË ¢¤¬ÃƤ ±¤ë¡£¿° Ʊ»Î¤¬¹ç ¤ï¤µ¤Ã¤Æ ¤½¤Î³«¤­¤¢¤Ã ¤¿Ì©¤ä¤«¤Ê¶õ´Ö¤ ˤ¤¤Ä¤â¤è¤ê ±Õ¤ÎÉ⤠¤ó¤ÀÀå¤ ¬Íí¤ß¤¢¤¦¡£ ¡Ö\ª\ì¤ ó¤ÁÍè¤ë¡ ¡¡¼Ö¤¢ ¤ë¤·¡£ÙÇÃ× ¤Ã¤Á¤ã¤¤¤¿¤¤¤Ê¡×多角形鉄柱近くの閑散とした住居のなかで21歳は改めて自身が今いる空間を確認する。椅子の上のハードコアポルノ雑誌とゲイポルノ雑誌、数冊。テーブルに積み重ねられた小説群。画材などが写された大量の写真が貼られている壁。ときおりセックスはするもののほとんどこのオワフに相応しい優雅さで時を過ごし、ときおり鳴る携帯電話をつかんではその添付ファイルをパソコンに送りプリントアウトするだけの、江口由希と名乗る男。そして、颯爽と調理される簡単な食事。21歳は眩い陽射しにふらつきながらテラスに出る 多角形鉄柱直下 それを背後に男がハンモックで寝そべっている。
あのさぁこの小説読みました?
いや
そこに江口由希って名前が登場するんです。
名前が登場するって変な言い方だね
実際、そんな感じなんです。入り組んだ小説だからよく分からないけど、どうやら江口由希という人物が複数登場してます。そのうちの1人の遺品を撮った大量の写真がハワイにぶちまけられるところで終わる。その写真があの部屋にある。
そう
なんでもない学生があるとき江口由希って名づけられるんです。……どうしてここに住んでるんですか?
友人が永住権を当ててね、使わないからってことで利用させてもらってる。短い旅行のつもりだったけど気に入ったんだ。環境は人生を変える。それだけのこと。この環境にたまたまきたことが運命であり、おれは過去を棄てた。深い意味はない
あの幾つかの携帯…。
陽も沈むし、そろそろ夕食作るよ。一緒に
夕方。2人がバスルームで泡をたててじゃれあっている。男が21歳の横顔を見て笑う。もうすぐ行っちゃうのかぁ、さみしいな、空港まで見送りたいな、恋人みたいじゃん、おれ、そうゆーの、ここにきてからずっとないから。
ゆっくりできるのも明日1日……ちょっとさみしいです。¡Ö¹Ô¤¯¹Ô ¤¯¡×¤È 19ºÐ¡£¡Ö¤Í ¤§¡¢Ì¾Á°¤Ê¤ó¤Æ ¸Æ¤ó ¤À¤é¤¤ ¤¤¡©¡× 22ºÐ¤ ¬µ¤¤Å¤ «¤ì¤Ê¤¤¤ ¯¤é¤ ¤Ã»¤ ¤½Ö´Ö¡¢À Żߤ·¡¢¤ ½¤ì¤«¤é ¤¤¤¦¡£ ¡ Ö¹¾¸ýÍ ³´õ¡£¤³¤ ³¤Ç¤Ï¤ ½¤ì¤¬°ìÈÖ¼« ʬ¤Ë¹ç¤¦¡×そう言いながらも21歳はこの打ち解けた空気に強い違和感を覚えている。21歳がこの部屋の小説を読もうと思ったのは日本のことを知りたかったからだ。国際ニュースや雑誌の記事で時折触れられるような情報ではなく、日本に住む人間がどのようなことを母国語で考え、視ているのか。しかし、結局のところたいした収穫を得ていない。引っかかるのは、江口由希のもとに送られてくる小説との関連性の方だ。でも、と21歳は思う、この男の内面にあえて踏み込むほど、この男との関係に責任を生じさせたいわけではない。そして翌日、21歳は、爽やかな笑顔で観光したいと提案する。2人は日中ゆっくりとショッピングセンター巡りをする。数多く見られる日本人旅行者たちと、ちらほら見られる白人旅行者たちに紛れながら、2人は楽しそうに商品の展示を巡り、マッカリー・ショッピングセンター内のレストランで食事をとる。傍からみれば、円満な恋人同士にしか見えなかっただろう。

£³½µ´Ö¤Û¤É¤·¤ÆÃˤϤ¤¤Ä¤â¤Î\¯\¤¡¼\ó\º\µ¡¼\դǽ鸫¤ÎÆüËÜ¿ÍÀÄǯ¤òȯ¸«¤¹¤ë¡£¤½¤ì¤«¤éÈà¤È¾¯¤·¤·¤ã¤Ù



落ちかけた陽射しを室内に通す大作りの窓。ゆっくりとアクア色のメンズビキニを下ろした男は、覆いかぶさるように裸で横たわる江口由希に足元からまたがりその全身を舌で舐めながら「男の子は何も知らないんだからじっとしてるんだよ。ほら、気持ちいいかい? キミの知らないたくさんの世界をこれから教えてあげるから」と囁いている。攻められている男は顔を横に向けて目を閉じ、眉をひそめてときおり吐息を漏らしてしまう。その光景はまるで、男二人の肉体がベッドの上にあり、そこにかぶさるようにゲイセクシャルのロリータポルノが映写されているかのようだ。

夜。一通り終えた二人が静止している。

アロハシャツのボタンをとめながら男が彼に1台の携帯電話を放り投げる。1人になってさっきの男がくれた携帯を少しいじくると、裸の男の子の写メが大量にフォルダに収められているのを発見する。デジャヴのような感覚が襲う。だが、そんな感情に囚われた理由はすぐに分かる。その写メのなかで幾らかの男の子が行っていることは、さっきの男が江口由希にさせたシチュエーションと寸分違わず同じで、つまり、江口由希を通して男はポルノと化し、そうやって触れる欲望、いわば魔に、男は憑かれているのだろう。

ポルノの外から、指先を伸ばしてなんとか触れよう触れようとする裸の男。

江口由希はポルノグラフィを生きている。この小さな島でごく自然に。ポルノのなかで生き、生活の維持のために、ポルノの外からは、ポルノ性だけを期待する男たちがやってくる、内も外もポルノに染まった生活。ポルノを介するごとに彼の足元にあったはずの黒い影が消失していく。燦々と照る太陽のもと、真っ白な地面の上で彼のからだだけが宙に浮いているかのようにひっそりとそこにあるÃˤϤ¤¤Ä¤â¤Î\¯\¤¡¼\¿ÍÀÄǯ¤ò江口由希は、自身の携帯をつかんでゲイの白人にメールを送る。今から夜食だけどどう? ちょうど夜食が仕上がった頃合い、呼び鈴が鳴る。珍しくコックリングを装着しいつになくからだをより火照らせている江口由希が微かな鼻歌を連れて玄関口までその足を運ぶ。Hi!〜とドアを開けた先には、同世代と思われる見知らぬ女性が立っている。

ねぇアナタ、と挨拶なしに ここはドコで何年? 端的に言って実験結果は早急に知りたいノ、私は誰よりトレンドの先端に立ちたいんだから! あの開拓者のアタマデッカチに流行を仕切られたくないノ、早く早く! 男が日時と場所を告げると、女は文字通り飛び跳ね、ヤッタワ!私操れてる! 要するに思った通りの場所、時にいるワ! 問題は…同次元かどうかネ…。率直に言って、それを調べるのはちょっと難しいワ…。眉をひそめて女が去っていく。男はてっきり知人の白人ゲイがきたものとばかり思っていたために、相手をダイレクトに誘惑するはだけたバスローブ姿そしてコックリングをつけていたが、幸運にも先の女はそのことを一切気にしない。直後、また呼び鈴が鳴る。しばらくそこはポルノグラフィではない。メロドラマと化している。

直訳すれば、僕はきみがバイセクシュアルだということを知っている、でも僕を誘っておきながらついさっきまで女と過ごしてたなんて信じらんないよ! 言い訳は聞きたくない、だってついさっきそこで若い女の子とすれ違ったんだもの、彼女嬉しそうだったよ! こんなんじゃ一時の僕たちのドリームも台無しだ、この気持ちをどうしたらいいのか分からない、勘違いしないでくれよ、恋とかじゃないんだよ、分かるだろ、きみは一時のゲームのルールを踏みにじったんだ、最低なやつだ!

江口由希はバスローブのままベッドで寝転んでいる。コックリングが転がっている。食事はすっかり冷めてしまっている。死体のように坦々と時間だけが進行していく。

江口由希はテラスの方まで歩いていってガラス越しに鉄柱を覗き込む。そして早口の日本語で翻訳小説のように呟く。最低な一日だ! 興味のない男に一方的に抱かれ、わけの分からない女に突然訪問され、せっかく誘った男は勘違いして部屋の片隅でべそをかいてやがる! 小さな声だったため、苛立っていることくらいしか白人の男には伝わらない。それから頭を振って食事に招いた白人の男に近寄る。強引にキスしようとし、片手ではねのけられる。だがその手をつかみとり、じっと瞳のその奥を覗き込む。英語で、本当に、おれは悪くないんだよ、きみの誤解だ、おれの方もすっかり気分が覚めてしまった、せっかくきてくれて嬉しかったけど帰ってもいいよ、おれは寝るから好きにしててくれよ。

少し時間が経って、暗闇のなかで、白人の男が英語でいう。今日は帰るよ。僕はきみがタイプだから、また気を取り直して遊びたいな。じゃあね。

静かに閉められるドアの音を聞き、江口由希は胸を撫で下ろす。先の空間では、生涯の大部分をかけてポルノグラフィに費やした一切合切の時間がすべて機能せず、無に帰す。孤独と呼ばれる。絶望の虚へとまで抱いた者を落とすだろう。

¤¸¤ã¤¢¤³¤³ ¤ËÆü ËܤΤ³¤ Ȥ¬½ ñ¤ «¤ì¤Æ¤ë¤ó ¤Ç¤¹¤«¡ ©¡¡¤µ¤¢¡ £¾®Àâ ¤À¤«¤é¤Í¡ £¤½¤¦¤¤ ¤¦¤Î¤â¤¢¤ë ¤«¤â¤·¤ ì¤Ê¤¤¤· ¡¢¤Û¤ ¤ó¤ÉÆɤó¤ Ǥʤ¤¤ «¤éʬ¤ «¤é¤ ʤ¤¡£ Í âÆü¤ â¡¢Í⡹Æü¤ â¡¢\¯ \¤¡¼\ ó\º\ µ¡¼\Õ ¤ÇÃÎ¤ê¤ ¢¤Ã¤¿ 21ºÐ¤Ï µïºÂ¤ê³数日間、源氏名江口由希として、たいしてタイプでもない男を相手にする期間を某所でこなした彼は、キャッシュカードで収入を確認すると、再びまたクイーンズサーフを行き来する日々に戻る。これといって指摘することもない平穏に彩られた日々の連続¤±¤ë¡ £¤â¤·¤«¤ ¹¤ì¤Ð½ »¤ó¤ Ǥ¤¤¿¤«¤â¤ ·¤ì¤Ê¤¤ ÆüËÜ¡¢¤ ½¤³¤Ë ½»¤à ¿Í¤¿¤ Á¤Î\¤\á ¡¼\¸¤ òÂηϤ Ť±¤ 褦¤ Ȥ·¤ Ƥ ¤¤ë¤« ¤Î¤è¤¦¤ Ç¡¢Ã ˤϤ½¤ó ¤Ê21º ФȲ¿ ÅÙ¤«\»\ Ã\¯\¹¤·¡ ¢¤¢¤È¤Ï\ Æ\é\¹¤Ç¤ «¤é¤ À¤ò¾Æ¤¤¤ ¿¤ê¤· ¤Æ¤ ¤¤ëÀ ¤Í¡£読むものといえばハードコアポルノ雑誌とゲイポルノ雑誌、そして、ときおりハワイのフリーペーパーKAUKAUに目を通すのみ。彼はオワフに住む者たちや旅行者たちと頻繁に性を交わすため、世間話に苦労しない程度の情報は入ってきている。そして、オーバーレイで蛇が描かれたシルバー925の指輪が、窓から差し込む太陽を受けて瞬間、光る。

¡£¾®Àâ¤Ê¤ó¤ÆÆɤó¤ÇÌÌÇò¤¤¡©¡¡¤½¤¦¿Ò¤Í¤ë¤È21ºÐ¤Ï¡¢ ¤â¤·¤«¤¹¤ì¤ÐËͤ¬ÃΤꤿ¤¤¤ ʤˤ«¤ ¬¤³¤³ ¤Ë¤¢ ¤ë¤«¤ ⤷¤ì¤Ê ¤¤¤È »×¤¦¤ ó¤Ç¤¹¡£¤ ³¤³¤ÎÂ Úºß ¤Ï¤¢¤È°ì½µ´Ö¤À¤ «¤é¡¢½Ð ²ñ¤Ã¤¿¤ â¤Î¤È ¤Ï¤½¤ì ¤Þ¤Ç ¤Ë¸þ¤­¤¢¤ï ¤Ê¤残酷な時の流れのなかで成す術なく泣き叫ぶだけの男の子の意識が飛び、誰にも知られるはずのない絶望的な世界が表現されたのちに絶命する 生臭い血の匂いと骨の削れる音 ときが経つ 太平洋の真っ只中にある島から水平線を眺めながら一組の都会的な男女が砂浜で立ち尽くしている 完全防備されたスーツケースを片手に抱えている そこにアロハシャツの男が現れる ぎょろっとした眼 唇が緑色だ きみたちは楽しめた? 私はちょっとビビっちゃったねぇ ちょっとクレームつけないといけないねぇ 私は男の子のケツに注ぎながらひしっと抱き締めてあげたいだけなのにあそこまでさせられるなんて良心ってものがないんだろうな 今回の撮影チームは 貴重な体験はしたけどねぇ 苦笑し男女になにかを訴えかけている 女が「暑い 汗かいてきたわ」という 男が「そうだな」という¤¤ Ȥ⤦ÆóÅ Ù¤È ½Ð²ñ¤¨ ¤Ê¤¤ ¤«¤â¤· ¤ì¤Ê ¤¤¡£Í ³´õ¤¯¤ó ¤Î¤³¤È¤â ¤â¤Ã¤ÈÃÎ ¤ê¤¿¤ ¤¤±¤ ì¤É¡¢ ͳ´õ¤ ¯¤ó¤ Ϥ«¤é¤À¤Ë ¤·¤« ¶½Ì£¤Ê ¤¤¤è¤¦¤À ¤«¤é¡Ä ¡Ä¡ £¾®Àâ ¡¢¿ïʬ¤Þ ¤È¤á¤¿¤ó ¤À¤Í¡ £·ë¹½ Æɤó ¤Ç¤ë¡£ ¤¹¤²¤¨¤Ê ¡£¤½¤ì¤ò ¼õ¤±¤¿ 21ºÐ¤¬ ¤¤¤ ¦¡¢¤ ɤ¦¤·¤ ƺ£ ¤Ï¤³¤³ ¤Ç¾® Àâ¤Î «¤Ë°Ï¤Þ ¤ì¤Æ¤ ë¤ó¤Ç¤ ¹¤«¡£Ãˤ ¬21ºÐ¤Ë» ëÀþ¤ò¤ ¢¤ï¤» ¤Æ¡¢¤ ʤˤ «¸À¤ª ¤¦¤È¤·¡¢ ¤ä¤¬¤Æ¡¢ ËÀÆɤ߫»強い陽射しから逃げるようにハンモックから降り影になったぶんだけ冷ややかな室内を歩く。もっとも枚数の多い「鉄塔周辺」の著者名西村清文を暇つぶしの気持ちで検索する。弾けるキーボードの乾いた音。幾らかの同名人物は見当たるが小説を手掛けてそうな該当者は見つからない。ただ不気味な画家の存在だけが頭に残る。西村清文という画家。そのインタビューページをざっと読み流していたときに、鉄塔、という単語に引っかかる¤ Ȥ·¤
So What?
Hell If I Know!!——ある夜に彼は黒人カップルを相手に多角形鉄柱直下のテラスでカフェを楽しんでいる 3人すべてアクセサリー以外のものをつけていない 女は彼を肉体的に好いていて 黒人男の方はその黒人女と7年の関係だからといって3人での性交渉を特別に許すという 1時間ほどして彼の上に座っている女を背後から男が抱き締めて首筋にキスし 彼は 腰を振りながらふと黒で切り裂かれた視界に ある太陽を微かに見ると そこをちょうど鳥がよぎって  数日前の記憶を呼び起こす そしてここオワフにて孤独という名の神に出会ったと英語で口にする
時空は歪まない
男は 女の首筋にキスし 彼は その女のなかで熱く火照らせている
火照らせたその先端がじわっと濡れる
大量の液体に包まれ
遠くで鳥が鳴く
פ¨¤Ê¤¤¸ýÄ´¤Ç´ñ̯¤Ê¤³¤È¤ò¸ýÁö¤ë¡£¡½¡½ÆÍÇ¡¡¢±¿Ì¿¤Ë¼«Í³°Õ»Ö¤ò¤«¤¹¤á¤È¤é¤ì¤¿¤ó¤À¡ £クイーンズサーフで待ちあわせした白人4人を相手に淫乱な乱交をしてきた江口由希がふいに喉が渇いたために途中で車を停めて一度も入ったことのないワイキキ近くのカフェにいく¿³Ñ·Á Å´Ãì¶ á¤¯¤Î´ ×»¶¤È¤ ·¤¿½»µï¤ Τʤ«¤Ç2 1ºÐ¤ ϲþ¤á¤Æ¼ «¿È¤¬ º£¤観光客で騒がしいテーブルの隙間を縫ってそれでもなんとかくつろげそうなスペースはないかとさまよっていると1人の見覚えのある男の姿を見かけたので、いったい誰だっただろう、記憶に薄いな、と思いながら、その隣のテーブルに座る。¤¤ë¶õ´Ö¤ò³Îǧ¤¹¤ë¡£°Ø»Ò¤Î¾å¤Î\ Ï¡¼\É\³\¢その男は対面にいるすらりとした女と喋っている 美しいが氷のように冷たそうな肌をしているなと彼は思う 浮かれていない坦々とした日本語の会話がまるでこの空間では暗号のようで\Ý\ë\λ ¨»ï¤È\²\¤ \Ý\ë\λ ¨»ï¡¢¿ôº自然と彼の気持ちが引き締まるý¡£\Æ¡¼ \Ö\ë¤ ËÀÑ ¤ß½Å ¤Í¤ é¤ì¤¿見覚えがあるように感じた男はインテリチックな眼鏡に黒い髪が若干かかっている¾®Àâ·² ¡£¤Ê¤ ˤ«²èºà ¤Ê¤É¤¬¼ ̤µ¤ì ¤¿Âなにか違和感を感じていたのだが、男がずっと女の片手をさすり続けていたからだと気づく。彼はそれではっきりと思いだす。先日インターネットでインタビューを読んだ画家だ。そのページに掲載されていた1枚の写真と同じ男だ、と。

明るい陽射しがグラスに反射している。揺らぐ大気。潮の香り。

奇遇だなと彼は思う。恋人か愛人かとここへ旅行にきてたなんてçÎ̤μ̿¿¤¬Å½¤é¤ì¤Æ¤¤¤ëÊÉ¡£¤È¤­彼は別に話すこともないのでドリンクを飲んでいる間、ぼんやりと会話を聞き続けるが、知的な象徴に覆われたその会話がいったいなにを語っているのかいまいち理解できない。英語、日本語問わず、理解できない言葉の連なりに遭遇するなんて実に文学と呼ばれる小説をよく読んでいたとき以来だ、と彼は思う。この男女は今晩ここを発つらしい。数時間前までどうやら近隣の島にいたようだ。そういった日常的な断片は理解できるものの、話題の主だっている部分はすべて美学に関する内容で、彼はやがて疲れ果てて真剣に聞き耳を立てるのをやめる。美学!¤ª¤ê\ »\Ã\¯\¹¤ Ϥ¹¤ë¤ â¤Î ¤Î¤Û ¤È¤ó¤ ɤ³¤Î\ª\ ï\Õ¤ËÁê ±þ¤·¤¤Í \²í¤µ¤Ç» þ¤ò²á¤´¤ ·¡¢¤Õ¤¤¤ ËÌĤë·È ÂÓÅÅÏ Ã¤ò¤Ä¤« ¤ó¤Ç¤Ï¤ ½¤ÎźÉÕ \Õ\¡\¤\ë ¤ò\Ñ\½\ ³\ó¤ËÁ÷ ¤ê\×\ê\ ó\È\ ¢\¦\È ¤¹¤ë¤ À¤±¤ Ρ¢¹¾¸ýÍ ³´õ¤ÈÌ ¾¾è¤ë ÃË¡£¤ ½¤·¤Æ¡ ¢ñ\ÁÖ ¤ÈÄ´Í ý¤µ¤ì¤ ë´Êà ±¤Ê¿ ©»ö¡£ ¤½¤ì¤Ï ¤È¤Æ¤ âÉÔµ¤ Ì£¤ Ç¡¢2 1ºÐ ¤Ï¤Ê ¤Ë¤ «µï¿´ ÃϤΰ­¤µ¤ ò³Ð¤¨ ¤ë¡£â Á¤¤ Íۼͤ ·¤Ë¤ Õ¤é¤ Ä¤­それは才能を持ちあわせた者が拠り所にする世界だ。おれには関係ない、おれには才能がなかったんだから¤Ê¤¬¤é \Æ\é\¹¤ Ë½Ð¤Æ Ãˤòõ ¤¹¡£¤½¤Î \Æ\é\¹¤ ¡¢Â¿³Ñ· ÁÅ´Ãì ľ²¼¡£¤ ½¤ì¤òÇØ ¸å¤ËÃË ¤¬\Ï\ó\ \Ã\¯¤Ç ¿²¤½¤Ù¤ äƤ¤¤ ë¡£ ¤ ¢¤Î¤ µ¤¡¡¢¤³ ¤Î¾® Àâ¡¢ÆÉ ¤ß¤Þ ¤·¤¿¡© ¤ ¤¤ä¡£ ¤½¤³¤ ˹¾¸ýͳ´ õ¤Ã¤Æ¤¤ ¤¦̾Á°¤¬ ÅÐ¾ì ¤¹¤ë¤ ó¤ Ǥ¹¡£ ̾Á°¤¬Å о줹¤ ë¤Ã¤Æ ÊѤʸÀ ¤¤Êý¤才能のない人間は持て余したエネルギーを誰かから紛らわせてもらいそして空虚と戯れることによってゆっくりと国民共通の孤独なメッセージの交換をしあいながら波が引くのを祈りながら満たしていくのだ。彼はまだドリンクを飲み干していなかったが席を立つ。これは、関係のない世界だ。

多角形鉄柱の側に住んでいる彼のもとに様々なルートを辿って集まってくる携帯電話の1つに、新たな小説が届き、それが最後の契機となる——これまでにも幾つかの契機が積み重なっていたこと——それは、最後の契機に巡りあわなかったなら生涯光に照らされることもなかっただろう 彼はこれらの積み重ねを意識していないがいったん帰国しようと飛行機のチケットをとりに出掛ける。いずれどうして帰国しようと思い立ったのかを思い巡らしそして記憶の海からそれらしき契機を幾つか取りだして推論を立てるかもしれない。¤Ê¤¬¤é \Æ\é\ ¹¤Ë½Ð ¤Æ¡¢Ã ˤòõ ¤¹¡£¤½¤ Î\Æ\é \¹¤Ï¡ ¢Â¿³ Ñ·Á Å ´Ãì ľ² ¼¡£¤ ½¤ì¤òÇ Ø¸å¤Ëà ˤ¬\Ï\ó \â\Ã\¯ ¤Ç¿²¤ ½¤Ù¤ Ã¤Æ ¤¤¤ ë¡ £ ¤¢¤Î¤ µ¤¡¡ ¢¤³¤Î¾® Àâ¡¢Æ É¤ß¤ Þ¤·¤¿¡© ¤¤¤ä¡£ ¤½¤³¤ ˹¾¸ýͳ´ õ¤Ã ¤Æ¤¤¤¦Ì ¾Á°¤¬Å Ð¾ì¤ ¹¤ë¤ó ¤Ç¤¹¡£ ̾Á °¤¬ ÅÐ¾ì¤ ¹¤ë¤Ã¤Æ ÊѤʸ À¤¤ Êý¤ 大量に届けられていた小説群のなかから西村清文作「鉄塔周辺」を選んで持ってきた彼は、この、いつも最初のほうで読むのをやめていた小説を、機内で読み進める。

太平洋の上空で数時間を過ごし、じきに彼は成田に降り立つ。



旅行鞄を受けとるとボディチェックをかいくぐり、空港の外にでる。奇妙な感じだ。なぜ不自由なくオワフ島で暮らしていたのに今になって母国に舞い戻ってきたのだろう。成田空港から東京駅行きの新光速の電車に乗る。乗客のなかにはいつしか多くの(彼にとって見慣れた)奇抜なファッションをした者たちが紛れ込んでいる。座席を探すまでもなく僅か5分で到着すると、山手線に乗り換えて池袋まで行く。そこは、西口公園の真横に乙女ロードがあるような、西口と東口が九十度回転したような池袋だ。そして光彩がきつい。夜だというのに風景がすべて逆光のようで、前から歩いてくる人々も間近にくるまでそのディティールが光に溶け込み、読みとるのが難しい。彼は鞄から赤外線グラスを取りだしてそれを耳にかける。頭上では、二つだった月が四つに増えて、その隙間を縫うように旅客機が直進している。歩いている人々は、まるで白人かと見まがうばかりに髪や肌の色を染めていて瞳の色を変えている。以前日本を発ったときよりも状況は甚だしく進行している。彼はこれまで出会ったすべてのタイプと性交渉を持ってきたが、ポルノグラフィである世界観のなか、それゆえに、恋愛だけは長くしていない。

彼はアパートの一室である自宅に帰り着くと、そこで怠惰に数日間を過ごす。

ふと思い立ったときにオーバーレイで蛇が描かれたシルバー925の指輪を磨く。ときに歓楽街へ飲みにでて、ときにクルージングスポットや路上ナンパなどを繰り返して一期一会を愉しむ。その間、小説を読むことは一切ない。必要とされない。この「鉄塔周辺」の読者は、結局、池袋よりも外にでることなく自室にひきこもるか出会いと身体的接触を楽しむかするのみで、小説の必要性に迫られない、シャワーを浴び終えてコーヒーを煎れて煙草を吹かしながら、機内で読んだその続きを手にとるようなこともなく、さらに数日間、怠惰にときを過ごす。だが、文量という理由だけで選ばれ日本に運び込まれた「鉄塔周辺」は、物語作りの良さが分からない著者による〈読み物〉で、そして、それを〈読み物〉の良さが分からない読者が持つという〈異常事態〉が、そこでじりじりと進行している ¼ÂºÝ ¡¢¤½¤ ó¤Ê´¶ ¤¸¤Ê¤ó ¤Ç¤¹¡£Æ þ¤êÁȤ ó¤À¾® Àâ¤À¤« ¤é¤è¤¯ ʬ¤«¤é ¤Ê¤¤¤ ±¤É¡¢ ¤É¤¦¤ä ¤é¹¾¸ýÍ ³´õ¤È Íʪ¤¬Ê £¿ôÅР줷¤Æ¤ Þ¤¹¡£¤½ ¤Î¤¦¤Á ¤Î£±¿ ͤΰä Éʤò» £¤Ã¤¿ ÂçÎ̤μ Ì¿¿¤¬\ Ï\ï\¤¤ ˤ֤Á ¤Þ¤±¤ é¤ì¤ë¤ Ȥ³¤í¤ ǽª¤ï¤ ë¡£ ¤½¤ μ̿¿¤ ¤¢¤ ÎÉô²°¤ ˤ¢¤ë¡£ ¤É¤ ¤¤¤¦¤³¤È¤ «¤Ê ¤È¡¢¤¿¤À פ¤ ¤Þ¤·¤ ¿¡£ ¤½¤¦¡£
「こんな場所でタイプの人と出会うとは思わなかったわぁ♪」
おれ、江口由希として生きるべきかな
「ふうん、いいじゃん、楽しそう♪ 自由サイコー! それでいっちゃいなよー」
¤Ê¤ó¤Ç¤â¤Ê¤¤³ØÀ¸¤¬¤¢¤ë¤È¤­¤Ë¹¾真夜中のビデオボックスでそう口にしたのは、出会い系サイトを通じて落ちあった二十歳前後の女装子だ。全身ギャル系でコーディネイトしている彼女は少しずつだがホルモンも入れだしているらしい。彼はうっかり「だよね、普通いくよね」と口を滑らせるが、個室で2人並びあって相手のからだをまさぐりながら薄暗い照明のもと男女が集う飲み屋でもなく——彼の場合滅多に行かないフェティッシュバーやハプニングバーの類いでもなく——ゲイが集うクルージングスポットでもなく、ましてやアドレス帳にある誰それでもなく独特の焔に導かれてここへやってきた、そんな領域だ、通常の世界ではまだまだ過ごし難い者たちのために仮構された愛おしくもか細い領域
江口由希という名はオワフでの源氏名にすぎなかったのに
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小説の続きを読むのは、やがて訪れた雷雨の夜だ。

もはや批評の鍵を失ったような気分で、止めることなく読み進めていく。

雨のやんだ明け方、第4部のラストまですべて読み終えた彼は、この「鉄塔周辺」がそのなかで蠢く作中人物によって作られたものであると同時に、その作中人物こそが〈西村清文〉という名で活動しはじめた、その記述を前に一旦は腑に落ちる。前に知りあった21歳はとある小説に登場する〈江口由希〉がオワフでどうのと言っていたが、「鉄塔周辺」は〈西村清文〉が〈江口由希〉に送信した小説であり、その〈江口由希〉の何人目かがたまたまオワフの多角形鉄柱直下で暮らしていた俺なのだ、と。そして、翌日彼のもとに、終わっていなかった西村清文作「鉄塔周辺」第5部「REPORTED SPEECH」が携帯電話を通して届く。

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4

さざ波が消える。

作品世界では幾らかの者たちが次元を越えることに成功している。そして向こうの住人〈西村清文〉がこちらの記名〈江口由希〉にメッセージを届けている。向こうでの事実がこちらでも事実となることを願って。だが、江口由希は、オーバーレイで蛇が描かれたシルバー925の指輪を磨く。

新たに第5部がつけ足された長い小説、西村清文作「鉄塔周辺」の内容は、鉄塔のもとで会話を始めた男2人が偶然とは言いきれない様々な事柄に巻き込まれながら離れては合流し、離れては合流し、そして、離れるたびに2人の距離はより一層遠ざかるが、それでも合流する。第5部の末尾、より一層離れた2人の間にある距離は不可能性という言葉が浮かぶほどに遠く、江口由希にとってこの物語がただの物語でないのは、作中から次元を越えて、江口由希のいるこの世界が描写されているからだ。きっと、2人のさらなる合流のために、江口由希は何らかの役割を引き受けなければならない。

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後日、彼の幾つかの携帯電話の1つから独特のメール受信音が鳴り渡って、開くと、「鉄塔」が映された画像が添付されている。
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彼の脳裏に、ある人物の名が浮かぶ——佐伯俊之という署名で江口由希宛てにメッセージが届いていたはず 彼はそれを思いだせない雨の音を耳にしながらからだを伸ばして起き上がり、簡単だがとてもカロリーの低い食事を作って、それを机上、小説が印字されている紙束の脇に並べてさくっとたいらげてしまい、洗い物をすまし、煎れたコーヒーに口をつけながら煙草を吸い、ふらふらと室内を歩いてユニットバスにお湯をためて、ぼんやりと湯気を眺めて、オワフにある多角形鉄柱側の家は永住権を当てた友人の所有物だったため、彼は風呂を上がるとその友人に電話をしようか考えながらも結局やめてしまう。友人のもとにも小説受信装置となる携帯電話が幾つも届いていたのなら 不気味な境遇を友人から受け渡されたことになるがそんなことはまるで言っていなかったし ならば問いかけてみても答えは返ってこないはず そもそも友人は仕事柄どうしても1カ所に落ち着くことが難しくあの家に一度も住んでいなかったし、江口由希的な場として捉えるならば、友人があの家を選ぶよりも前にあの場所に何らかの歴史があったかもしれず、しかしだ、そういったことを解くために生まれてきたんじゃない。

彼は5歳のときに模倣や落書きとは違う絵を描きはじめ その翌年から様々な既存のスタイルに手をだすそれから何年も経ち、あるとき——突如、運命に自由意志をかすめとられたんだ——彼は江口由希と名づけられ、その〈江口由希〉に与えられた仕事内容に気づき、ある次元にある池袋某マンション一室で、西村清文という他者の願いを引き受けるかどうか、——突然、携帯の受信音が、鳴り渡る。

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「由希、これはおれの願いではない。ましてや鉄塔のもとで会話を始めた2人の願いでもなければ西村清文の願いでもない。おれは10年以上前から数多くの由希とつきあってきたが、おまえには期待している。おまえは、あの10年前の由希以来、おれと時間をともにできた男だからだ——佐伯俊之」

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誰の願いであろうと、それは、必要なものなのか?
しかし、論理的に必要ない存在を導きだすとは、誰のどういう願いだ?
そして、出会うべき男は、自ら影に飲み込まれ、俺は、真っ白なポルノグラフィの只中で、シルバー925の指輪を磨いている。






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